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はじめに
…当社では、柿渋を用いて伝統工芸伊勢型紙の型地紙を製造してきました。…
最近柿渋の名前を聞く機会が増えたように思います。建築内装の塗料としてや柿渋染めの布製品・健康食品等々。柿渋色の電気製品というものも。一種のブームのようにも思いますが、以前は柿渋の知名度は低いものでした。
昔(中世以降らしい)は、かなり生活に密着した素材であったようで、柿渋は農村・漁村の家の庭先で作られていたとも言われます。タンニン成分による漁網の補強としてや、防腐効果・乾いて防水性となる性質を生かして様々に利用されていたのです。ところが近代になり化学合成樹脂塗料(ニス・ラッカー・ウレタン等)など性能的に優れたものが使われるようになって、次第に身の回りで用いられる事がなくなっていました。一部のご年輩の方で、単に「渋:しぶ」と記憶されておられる方もいらっしゃると思います。(補足もご覧ください。)
近年自然志向の高まりもあり、塗料や染料として用いられ、ある意味で見直されている事も確かです。シックハウスの原因であるホルムアルデヒドを吸着する作用があることが実験されたり、健康食品などに利用もされています。ただ長年柿渋を伊勢型紙の地紙製造に使用してきた私共としましては、一過性のものではなく、柿渋の長所・短所を共によくご理解いただいた上で、昔の人々の知恵の結晶である柿渋を使い続けていただきたいと願います。
ちなみに柿渋の原料である柿は日本原産の果物らしく、学名にもkakiという言葉が使われています(※)。昔から私たちにとって馴染み深く、農家に限らず庭にもよく植えられてきました。日本を代表する果物といえるかもしれません。
「柿が赤くなると、医者が青くなる。」とは柿の栄養価の高さを言い表したことのようです。(※)。
※柿について詳しいサイトとして食品広場の「フルーツ大好き応援団」をお勧めします。
…以下は、当社内で昔から柿渋を製造・使用してきた経験や実際に試した事実をもとにし、また他にも皆様から情報・画像等をいただいたり、化学的な解説の部分などは、各種文献・資料をもとに記しています。しかし、もし記述に誤りを見つけられたり、新しい情報をお持ちであれば、ご教授いただきますようお願い申し上げます。…
柿渋の正体
柿渋の「渋」とは、一般にタンニン(※)質の事を言い、木の樹皮や未熟な果実や種子の中に多く含まれています。渋柿を口にすると強烈な渋みがありますが、渋みを感じさせるもの=「渋」は他に茶の葉(茶渋)・未熟なバナナ・ワインなど多くの植物に含まれます。人によるその利用例のひとつが柿渋です。未熟な渋柿の実の汁を搾って作られるもので、水分・糖分・柿タンニンなどからなり、主成分である柿タンニンは、水の作用で縮合して高分子物質となる縮合型タンニンの一つです。…カキタンニンの化学構造式もわかっているようですが、詳しくは、補足の柿渋の文献についてでご紹介している書籍をご覧になってください。
※タンニン…「植物界に広く分布する物質で、水に良く溶け、渋い味をもち、多数のフェノール性ヒドロキシル基(水酸基)をもつ芳香族化合物の総称。」(三省堂 化学小事典より)大きく分けて、加水分解型タンニンと縮合型タンニンとがあるようです。元々「タンニン」という呼び方は、「タンニン活性」というある特性を持つ物質につけられたもので、最近では、正式(専門的?)な呼び名としてはあまり使われないようです。(学校でも物質名としては習わなかったのではないでしょうか。)化学構造的には、ポリフェノール化合物の一種ということになるようです。
タンニンは植物にとって自己防衛の役割を果たしてくれる物質のようで、渋柿の果肉に含まれるタンニン(渋み)は未熟な種子を外敵から守っています。赤ワインの渋み・栗の実の渋皮など、私たちも味覚の記憶から納得できますね。
タンニンの利用例として皮のなめし剤として用いられる物があります。なめす(鞣す)ことで、皮は腐らず硬くならないようになって、革製品が成り立ちます。タンニン=tanninは皮を革に鞣す(=tan)性質を持つもの(?)ということですので、大陸文化の歴史が感じられますね。
製造方法
渋柿の中でも最も渋みの強い品種(産地によって異なりますが、豆柿・天王柿・山柿など。小粒のものがタンニン成分の割合が多いとされます。)を使います。青い柿を最も渋みの強い時期(8月頃)に採集し、その日のうちに砕いて搾り濾過します。(ここまで1日で行います。)採取してから日を置くと、果肉が変質し柿渋を搾りにくくなります。この搾り汁を自然発酵(※)させた後、長期保存しますが、次第に澱(おり)が沈澱し、それを除いた上澄み液が柿渋となります。これを1年から3年以上かけてねかし熟成してつくりますが、古いものほど良いとされます。昔は樽などでしたが、現在はホーローのタンクなどです。搾る手間より、長期保存(熟成)の管理が大変と言えます。搾った直後は薄い緑色の液体ですが、発酵後、時間とともに茶色くなっていきます。化学薬品などの添加物は加えません。昔、柿渋を大量に製造していた時期に天候のせいで渋柿が不足した事があり、一度搾った後の柿の搾りかすに水を加えて再度搾った2番渋を作る事もありましたが、現在ではそのような事はありません。(家庭での作り方などは補足もご覧ください。)
※発酵について…搾った柿渋を殺菌し、あらためて酵母菌を加えて発酵させる、という方法をとるところもあるようです。
用途
柿渋は、漆器製造の際、漆(※別頁でかぶれにくい漆をご紹介しています。)の下地として炭などと混ぜて塗られたり(主にコスト削減のためのようです。)、漁民にとって高価だった漁網(綿・麻)の強度向上のための網染め染料、酒や醤油製造づくりの際の搾り袋の補強・染色材などの用途や、団扇・和傘、船の船底に塗られるなどに使われてきました。また、中風、高血圧の民間療法の薬としての面もあったようです(補足参照。)。
当社のように伊勢型紙の地紙製造の材料としてや、紙衣に塗られるなど、和紙の強化にも使われました。地方によっては、砥粉(とのこ)と混ぜて家屋の柱に塗ることもあるようです。
近年では、日本酒製造の際の清澄剤(*)などの特殊用途以外はほとんど使われなくなっていました。ところが最近では、その独特な風合い・発色をいかして布地の染色や、自然素材塗料として木材塗装用途・一閑張りの和紙に塗る等に使われています。酒袋の独特の色合いを好んで、バッグなどに再利用されたりもしているようです。変わったところでは、化粧品の材料としてや、消臭剤などとして用いられます。 (*) 日本酒の製造の際に必ず柿渋が清澄剤として使用されるわけではありません。
特徴
柿渋には防水(※1)・防腐(※2)・防虫効果などがあり、塗布物の繊維質に吸収され乾燥後に不溶性物質をつくり、収斂性(しゅうれんせい:引き締める性質)を発揮します。
伊勢型紙の地紙(渋紙)用には、主に和紙を張り合わせる接着剤としてとその強度を増すために使われてきました。渋紙の出来・不出来は、柿渋の品質によるとまで言われます。
また、塗布(乾燥)直後の色は、ごく薄くほとんど色がつきませんが、時間の経過とともに空気に触れ光にあたるほど、濃い茶色に発色していきます。(ご参考→柿渋塗布直後の発色)
※1…撥水性はありません。防水についても、人工の防水塗料には劣るとご理解ください。
※2…下記のページで、柿渋の防腐効果についてとてもわかりやすい実験をされています。
奈良県森林技術センターのセンターだより「林試情報No64の天然薬剤による木材の防かび」
(リンクのご許可をいただいた奈良県森林技術センター様に改めて御礼申し上げます。)
取り扱い上の注意
保存
蓋のできる容器に入れ、温度差の少ない冷暗所に置いて下さい。昔は壺などに入れ床下に置いて保存したようです。注意点は、長期保存の際、凝固しないようにする事です。水飴状にどろっとしている状態であれば水を加えて薄められますが、ゼリー状(寒天状)になってしまったら元に戻らないので、時折様子を見て、粘度が高くなっていたら、一番良いのは粘度の低い柿渋ですが、手元に無ければ、水(汲み置き水で結構です)を加えて良く混ぜて粘度を下げてください。水道水そのままでは、馴染み難いのでよくありません。特に季節の変わり目など温度差が大きい時季に凝固し易いようです。当社販売の柿渋では低粘度のものと無臭品が、比較的凝固しにくいです。…柿渋が固まった様子がご覧いただけます。
※ 高粘度の柿渋は特別に固まりやすいため、夏場など気温が高い時期や、季節の変わり目・気温の変化が激しい時期には、特に保存に注意が必要です。商品到着後は、できるだけ早くご使用いただくようお願いいたします。
また中身の確認は、到着後毎日行い、粘りが増しているようなら、粘度の低い柿渋(無ければ、水道水を1日置くなどしてカルキを除いた硬度の低い軟水)で薄めていただくことが必要です。
高粘度は特殊な柿渋とお考えください。 (その理由や用途など詳しくは、当社の柿渋の種類について) |
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塗布
柿渋を塗布する対象として、布(糸)、木材、和紙などによく使われます。 →「柿渋について−補足」もご覧下さい。
原液のままでもご使用いただけますが、ご希望の仕上がりの色・風合いにより、2倍程度を目安に水で希釈してお使いください。
/木材塗料として使用する場合/
最初から厚塗りをすると剥離し易いので、薄めの柿渋で数回に分けて塗布・乾燥を繰り返す方が、塗りムラが少なくなり、発色なども良いようです。予め、木材の表面整える場合は、表面にサンドペーパーなどの粒が残らないよう注意してください。刷毛を使って塗ったり、布地で雑巾がけのようにして擦り込みます。刷毛で塗る場合も、塗りムラや、柿渋がたれるのを防ぐために、布を併用すると便利です。柿渋がたれて厚くなった部分は、濃く発色してしまいます。また、塗ってはいけない場所には、予め、マスキングをしましょう。木材には、一回目は、粘度の低いものを塗って良く染み込ませ、二回目以降に少し濃いめのものを使ってもよいです。しかし、初めてお使いの方は、一回目の塗布・乾燥の後、時間を置いて、発色を見てから、二回目以降塗り重ねするか決めましょう。一週間程度と数週間後では、随分色の濃さが違いますし、一回塗りでも結構濃く発色してきます。1リットルで10平米位塗れます。2から3回ほど塗布と自然乾燥(4,5時間程度)を繰り返します。薄く塗れば皮膜を作りませんので、木目のの風合いを生かした塗り方ができます。
(注意)化学塗料などと比べて耐久性はあまりありませんので、柿渋だけで屋外に塗る場合は、雨などにより流れることを前提としてご理解ください。
柿渋を薄めたい場合は、水(水道水の汲み置き)を使います。水道水そのままでは馴染みにくいですし、井戸水など鉱物が混ざっている水は良くありません。
/柿渋染め(布など)の場合/
生地にのりが着いている場合は、事前に中性洗剤で洗うなどして、のり抜きをします。これをしないと、後で色落ちの原因になります。十分の量の柿渋に浸してムラなくしみ込ませて染めます。よくしぼって、陰干しで乾燥後に、天日干ししますが、日に当てるほど発色が濃くなります(2から3日、冬季は長目)。これも発色の具合により染色と乾燥を何回か繰り返します。布地の染色の場合、乾燥後に風合いが硬くなりますが、洗濯機などにかけて柔らかくします(厚地で5分、薄地で3分、軽く脱水して乾燥)。また、布地の場合、木材などよりも染めムラが出やすいので、均一に浸透させるよう、天日干しも万遍なく全体にあたるよう注意が必要です。化学繊維よりも天然繊維のほうが染まりやすいようです。糸染めなどもおもしろいでしょう。ただし、これも、染めムラに要注意です。
/和紙の場合/
柿渋に浸すか、刷毛で塗り重ねて染めます。浸す場合は、後でよく水分をとります(ペーパータオルなどにはさんで)。そうしないと和紙が水分を含んで弱くなり、破れるものもあります。板などに張り付けて、刷毛などで染めても良いようです。あとは、天日乾燥です。
臭い
柿渋には異臭がありますが、乾燥後時間が経つにつれ臭わなくなります。木材に塗布した場合、1・2週間で、薄くなります。自然素材の臭いでもあり、気にならないと仰る方もおられ、感じ方には個人差があるようです。・・勿論、ひどい臭いというご感想の方が多いのですが。
染色の場合、数日間天日にさらしたり、薬品を用いて、臭いをとるようです。最近では、精製により無臭柿渋も作られています。臭いのある物と発色などが異なりますが、化学物質や水などは一切添加していません。通常の柿渋に比べ発色にかかる時間はは短いです(下の塗装例の写真をご覧下さい)。密閉した場所への塗布の際や、お子様などの反応が気になる場合には、ご使用いただければよいかもしれません。価格が通常の柿渋より高くなりますが、当社でも取り扱っています。
※臭いについて、お客様から「バルサミコ酢のようなすっぱい感じの発酵臭」というお言葉をいただきました。確認しましたが、なるほど似ています。
(バルサミコ酢も種類があるようで、全てそうではないかもしれませんが。)
「バルサミコ酢の臭いから、ワインの良い香りを差し引いたような臭い」でご想像いただけるかもしれません。
原料としては、柿渋は未成熟の渋柿を搾りますが、バルサミコ酢は完全に熟した葡萄を搾るようで異なりますが、果物の搾り汁を熟成させるという製造方法は同じようですので、近い臭いがするのも頷けます。
作業上の注意点
有機溶剤などを使いませんので、柿渋を塗る作業自体は難しいものではありませんが、衣服に付着すると後から発色し、取れないので気を付けて下さい。汚れても良い衣服やゴム手袋を使用して下さい。使った道具・容器もすぐに水洗いして下さい。
また、柿渋は鉄分に触れると黒く変色するので、触れさせないようにして下さい。
<ご参考>→釘に柿渋を付着させた簡単なテスト
鉄自体ではなく、付着した部分の柿渋自体が黒くなるという感じです。鉄に付いた黒い柿渋は拭き取ることが出来ますが、周りの木材や布などに付くと黒く染まってしまうので、マスキングなどをしましょう。
また、塗るものの表面に鉄分が付着していると、塗布後にに黒い点になってしまうこともあります。
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