渋紙(地紙)を彫り抜く(切り抜く)技法には次のようなものがあり、それぞれに応じた小刀(こがたな…彫刻刀)・道具を用います。一つの技法を習熟し極めるためには長い年月を要するため、一人の職人が本当に得意とする技法の数は1つか2つ程度になるのが通常です。かつて人間国宝(重要無形文化財)に指定された方々も、例えば六谷紀久男(錐彫り)・児玉博(縞彫り)・・(敬称略)というように名人にはそれぞれ得意な技法がありました。
縞彫![]() |
中柄
|
![]() |
![]() |
鋼(はがね)の定規に小刀をあて、手前に引きながら、均等間隔に縞柄を彫ります。単純な作業のようですが、実は、間隔をコントロールするために、高度な集中力を要する技法です。1センチ幅に最高11本もの縞を彫ることもあります。縞彫りまたは、引彫りと呼ばれます。
縞彫以外でも、小刀を引いて使うことから、友禅・浴衣の中柄を彫る技法も、引彫とよばれます。
![]() 薄茶色の横線部分 |
縞彫の場合、小刀で彫った後、紙を固定するために「糸入れ」という加工が施されます。染色するためには、縞状の紙が動いては困るからです。縞彫り用の型地紙は、あらかじめ、2枚に剥がし易いように作られており、彫り上がった後、2枚に剥がし、その間に、縞に対して横方向または、斜めに絹糸を何本も挟み、柿渋で元の一枚に張り合わせます。下図の、ヨコ方向の線が糸入れされた糸です。
従来はすべての技法で糸入れが用いられていましたが、「紗張り」(しゃばり)という技法が用いられるようになってからは、縞彫りだけに用いられています。
![]() |
![]() |
![]() |
|
5~8枚程重ねた地紙を、直径2~3センチの穴のあいた板(穴板:朴の木が使われる)の上に乗せて、刃先を1ミリ~2ミリに鋭く砥いだ刃先を前方に向けて垂直に突き立て、上下に動かしながら押すように彫り進みます。
彫り口に微妙な揺れがあり、いかにも手彫りという独特の「あじわい」と「あたたかさ」があります。
![]() |
|
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
2枚合わせで作られた刃先を、菱・角・花びら等々、様々な形に加工します。これを「道具」と呼び、この技法の難しさと特色は、道具を造り始める瞬間から始まります。職人は、柄に必要な「道具」を、何百本という自分の持ち物から選ぶか、なければ、先ずその道具を作り、その後で彫刻にとりかかるのです。
江戸時代には「ゴットリ」とも呼ばれ、複雑な紋様が均一に彫り上がるところから、小紋柄には欠かす事のできない技法です。
【参考】→道具彫りの道具
![]() |
|
![]() |
![]() |
半円筒形の刃先(錐)を地紙に垂直に立て、半回転させることにより一つの丸い穴をあけ、その連続で柄を作って行きます。鮫(さめ)・行儀・通し(とうし)・アラレ等の伝統的な錐小紋柄が、この技法で、作られます。
1センチ四方に100個程の穴を彫ったものもあります。微妙な力加減で、穴の大きさが変わってしまうため、やはり、非常に集中力を要する技法です
最後に、それぞれの技法の小刀(道具)を比較してみます。
左から、突彫り・引彫り・錐彫り・道具彫りの道具(一例)です。
伊勢型紙の彫刻などの画像(主に静止画。動画もあり。)
独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)「教育用画像素材集」>匠の技と心 - 染織(せんしょく)![]()